「CS6以降のアプリがいつでもすべて使える」という売り文句のAdobe CCで過去のアプリが使えなくなった件

この記事は、2019年に突然Adobe CCの過去バージョンが利用できなくなった件についてまとめた記事です。

Creative Cloudは”CS6以降のアプリケーションがいつでも全て使えるサービス”となります。
このスクリーンショットはAdobe Creative Stationより。現在 記事は削除されています が、インターネットアーカイブ で見ることができます。

何が起きたのか

箇条書きでかいつまんで書くと以下のような感じです。
Adobe Photoshopのようなアプリケーションは毎年メジャーアップデートされ、たとえば2012年はCS6、2013年はCC、2014年はCC 2014のようなバージョン番号が付けられています。

  • Adobe CCは月額制のデザイン系アプリケーションが使い放題になるサービス
  • 月額サービスのAdobe CCに加入すると「CS6以降(CS6を含む)のアプリがいつでも全て使える」という売り文句で有料会員を集めていた
  • ところが2019年5月9日頃、突然2017年やそれ以前のバージョンのアプリがダウンロードできなくなった
  • 月額料金を支払っている一般ユーザーは全員メールアドレスを登録しているが、メールでの事前通知は一切なかった
  • それどころかこの記事を執筆している時点では事後報告のメールすら来ていない
  • 法人に対してはこのページで説明しているようだが、そのページには「Adobeが認定したバージョン以外のバージョンを使用すると第三者に権利侵害を主張される場合がある」とユーザーを脅している
  • Adobeに問い合わせると「2メジャーバージョン前以前のものはダウンロードできないように変更した」と回答している
  • なぜ変更したのか、なぜ事前に告知をしなかったかなど問い合わせてもまともに回答しない
  • Adobe公式サイトや公式Twitterアカウントの一部には今でも「CS6以降のアプリが全て使える」という売り文句が書かれている
  • AmazonのAdobe CC商品ページや、Adobeの販売代理店のページなどは今でも「CS6以降のアプリが全て使える」と書いたまま販売をおこなっている(実際は使用できない)
  • さまざまな役所に問い合わせた結果、この件は「景品表示法の優良誤認に該当すると考えられる」という見解を複数の方からいただいている

古いバージョンが使用できないとどのような問題があるのか

古いバージョンのアプリケーションが使えないということに何の問題があるのか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえば以下のような問題があります。

印刷業界の場合

印刷業界は安定して印刷をおこなうため、またお金がなく古い機材の更新ができないため、業界全体でアプリケーションを安定した古いバージョンに固定して使用する習慣があります。
現在多くの印刷事業者はAdobe CS6を使用して印刷業務をおこなっています。

しかし、「新しいバージョンのCCアプリを入れようとすると古いバージョンのアプリが強制的に削除されてしまう」場合があるようです↓

印刷事業者の方は古いバージョンのアプリを消すわけにはいかないため、「新しいバージョンのアプリを使いたいが古いバージョンのアプリも残しておかなければいけない」という場合、これまでは問題なく両方利用できていたのに、これからはどうしようもなくなってしまいます。

映像業界の場合

今回の変更により、Adobe Encoreという動画をDVDなどに焼くときに使用するアプリケーションがダウンロードできなくなりました。
(古いバージョンがダウンロードできないということではなく、CS6までしか存在しないためアプリケーションそのものがダウンロードできなくなった)

ブライダル撮影などではまだまだDVDに映像を焼く必要があるそうで、関係者が困っているようです。

Adobe解説書を執筆している場合

私の場合、神速Photoshop [Webデザイン編] などのAdobe製品の解説書を書いたり、Webデザイン雑誌に記事を書いたりしていますが、その際「この機能が搭載されたのはどのバージョンなのか」を調べなければいけない場合があります。

Adobeの新機能ページはURLがころころ変わるなどして調べるのが難しいため、古いバージョンをインストールして調べる場合がありますが、それができなくなったため途方に暮れています。

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私が問題だと思っていること

  • ユーザーにとってかなり不利益になる契約内容の変更を何の事前告知もなくおこなったこと
  • それどころか個人契約ユーザーには事後報告すらないということ

さらに問題だと思っていること

個人契約者に関しては今のところAdobeから公式のお知らせは来ていませんが法人契約者に関しては以下のページが案内されています。

アドビ

そしてこのページの中には、Adobeが認定したバージョン(多くのアプリは過去2バージョン)以外のアプリを非認定バージョンとし、非認定バージョンを使用した場合第三者に権利侵害を主張される可能性があるとユーザーを脅しています。

この脅しが個人契約者にも関係あるのかどうかはわかりませんが、今まで「CS6以降のアプリがいつでも全て使える」と言って有料会員を集めておきながら、突然「過去2バージョン以外のものを使用したら権利侵害を主張される(訴えられる?)可能性がある」と脅すのはいかがなものでしょうか。

他社の会社の製品に移ればいいのでは?

「Adobeの方針が気に入らなければ他社の会社の製品に移ればいいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、印刷物のデザイン、Webデザイン、映像業界などでAdobeは独占的支配状態にあり「気に入らないから他社のものに移る」ということは、とくに仕事で使用している方には難しいのです。

過去に同じようなことはあったのか?

Adobe CCがユーザーへの事前連絡なしでユーザーにとって不利な変更がされたのは今回が初めてではありません。

Adobe CCは、初期の頃「最大2台のパソコンまで同時使用可能」と謳っていましたが、2014年6月19日に「最大2台のパソコンまでインストールして利用可能(同時利用は不可)」に変更されました。

このときも一部に問題視していた方はいましたが、その後この変更が撤回されるようなことはありませんでした。

この件を不満に思っているAdobe CCユーザーはどうすれば良いのか

消費者庁に報告するのが良いと思います。
この件についてさまざまな役所の方や、中小企業のトラブルを解決している財団法人などにも問い合わせましたが、今回の件は「景品表示法の優良誤認に該当すると考えられる」との見解を複数の方からいただきました。

古いバージョンがダウンロードできなくなった後も「CS6以降のアプリがいつでも全て使える」とAdobeの公式サイトに掲載されていることが特に問題だと思われているようです。

Adobeのサポートに問い合わせた際、何を聞いてもまともに回答しない状態が続いていましたが、消費者庁の名前を出した途端に慌て始め、メッセージを誤って途中で送信したり上長を名乗る方が私の携帯電話に電話してきたりしました。

左がAdobeサポート担当者の方です。担当者の名前にはPhotoshop CCでモザイクをかけています。

さらに5月9日にダウンロードできなくなった後も「CS6以降のアプリがいつでも全て使える」という記事がAdobeブログなどに掲載されていましたが、それが5月11日(土曜日)に削除されていました。

わざわざ土曜出勤してまで過去のブログ記事を消して回るということは、Adobeもこの件が法律に違反すると認識しているからだと私は考えています。

消費者庁に報告するには

本件について消費者庁にも相談したところ、情報提供フォームから情報提供して欲しいということを言われました。

フォームから情報提供するには、以下のページを開きます。
スマートフォンにも対応しています。

景品表示法違反被疑情報提供フォーム|消費者庁

会社名などはAdobe日本法人について分かる範囲で入力、「提供情報の種類の選択」は「不当表示」にチェックを入れると詳細入力画面が出ます。

提供情報の種類の選択は「不当表示」を選択

なお、景品表示法違反行為を行った場合どうなるかについては以下のページに書かれています。

景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか? | 消費者庁

追記: アドビ一般利用条件について

Adobe公式サイトには、5月13日現在以下のように書かれています。

“正当な理由以外によりアドビが本「条件」またはお客様の「サービス」の使用を終了する場合、アドビはお客様から提供いただいている電子メールアドレスを使って、少なくとも終了日の30日前までにお客様に通知するよう、相応の努力を行います。”

“当社は、有料サービスの変更については、(略)通知するために合理的な努力をします。”

“中止する場合、当社はお客様に「コンテンツ」をダウンロードするための合理的な時間を与えます。”

アドビ一般利用条件 より

なお、「アドビにおける企業倫理」のページには以下のように書かれています。

責任:言動に責任を持ち、約束を必ず実行します。

アドビにおける企業倫理 | Adobe より

“「コンテンツ」をダウンロードするための合理的な時間を与えます。” という約束の実行に期待しております。

追記2: 原因はドルビー社にライセンス料を支払っていなかったため?

サブスクリプションによるダウンロード提供のAdobe CCになってからはアクティブユーザー数に応じて使用料を支払うよう契約を結び直したものの、Adobeは使用料をまったく支払わなくなり、ドルビーが適切な支払いを求めるため帳簿の監査権を行使しようとしても、Adobeはこれを拒否しています。

Adobe CC、旧バージョンのダウンロード提供を突如終了。ユーザーには旧バージョン削除促すメール送信 より

ということで、原因は「Adobeがドルビー社に支払わなければならない著作権料を支払っていなかったため」ではないかと報じられています。

おそらく、ドルビーから「ユーザーに直接請求するぞ」と言われて慌てて今回の処置になったのだろうと思います。

ユーザーから代金を徴収して大きな利益を上げておきながら、支払うべき使用料を支払っていなかった…のだとしたら、いかがなものでしょうか。

本件の裁判資料らしきPDF(英語)を読みたい方は以下のリンクをどうぞ。

[PDFダウンロード] Dolbyvsadobecomplaint.pdf

日本語による内容の解説は、以下のツイートの詳細画面で前後のツイートもあわせて読まれるのが良いかと思います。

追記3: 違約金なしでCCを解約する方法3種

Adobe CCは、年間契約の途中で解約フォームから普通に解約すると違約金として残りの期間の50%程度の代金を請求されます。
また、クレジットカード払いの場合いつの間にか契約が更新され違約金がかかってしまうということもあります。

そこで、2019年5月時点で確認できている違約金がかからない解約方法を3通り紹介します。
年間契約を解約したい場合は解約フォームを使用せず、先に以下の方法を試してみると良いかもしれません。

月額プランに変更してから解約する

Adobeサポートに連絡し、月額プランに変更してから解約すると違約金がかからないようです。

別のプランに乗り換えてから14日以内に解約する

Adobe Stock付きのプランなど別のプランに乗り換え、Adobe Stockの写真は利用せず14日以内に解約した場合も違約金がかからないようです。

古いバージョンが使えなくなったことを理由に解約する

Adobeサポートに連絡し、古いバージョンが使えなくなったことを理由に解約すれば違約金がかからないことがあるようです。
もしそれでも違約金を請求された場合、「消費者庁に連絡します」と伝えてみるのも良いかもしれません。

注意点として、解約フォームの解約理由の欄に理由を書いても違約金は請求されるようです。
解約フォームではなく、Adobeサポートにご連絡ください。

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